母乳栄養児の腸内におけるビフィズス菌コミュニティー形成には
ヒトミルクオリゴ糖利用能力だけでなく「到達順序」が大きな影響を及ぼす
-ヒトミルクオリゴ糖利用能力の低いビフィズス菌B. breveがコミュニティーで優勢となる仕組み- ~科学雑誌『The ISME Journal』誌掲載~
森永乳業では、長年にわたり乳児の腸内にすんでいるビフィズス菌の基礎研究を行っております。このたび、京都大学の片山高嶺教授およびジョージア工科大学(米国)、サンフォードバーナムプレビス医療研究機関(米国)、新潟大学、滋賀県立大学、京都女子大学、帯広畜産大学、コーク大学(アイルランド)との共同研究により、母乳栄養児※1の腸内に多くすむビフィズス菌4種(乳児型ビフィズス菌;B. bifidum、B. longum subsp. infantis (以下B. infantis)、B. longum subsp. longum (以下B. longum)、B. breve)※2のコミュニティー形成について、以下の点が明らかとなりましたので報告いたします。
①ヒトミルクオリゴ糖(以下、HMO※3)を糖源としたHMO培地にて、2種のビフィズス菌を時間差で培養した。HMOの利用能力が高いB. bifidumおよびB. infantisを先に添加した場合、2菌種とも高い占有率を維持した。これは先に添加された菌種がエサであるHMOの大半を利用し、後から添加されたその他の菌種のエサが不十分な状態になったためと考えられる。
②B. breveは利用できるHMOが限定的であるにも関わらず、B. bifidum、B. infantisと同様、HMO培地中に先に添加すると高い占有率を維持し、ビフィズス菌4種を混合して培養した場合も最優勢となった。
③母乳栄養児の腸内細菌叢データを再解析した結果、出生直後の腸内でB. breveが検出された場合、4か月後にB. breveが優勢になりやすいことが分かった。よって②は実際の生体内でも起きている現象であると推察された。
④B. breveは、B. bifidum、B. infantisの2種がHMOを利用する過程で放出するフコース※4を利用することで高い占有率を維持すると示唆された。
本研究成果から、乳児型ビフィズス菌の腸内への到達順序とHMOの利用能力が最終的なビフィズス菌コニュニティー形成に大きく影響することが明らかとなりました。この結果は、生後間もない乳児の腸内に定着する細菌が、その後の腸内細菌叢の形成に大きな影響を与えることを示唆していると考えられます。
なお、本研究成果は、科学雑誌「The ISME Journal」に 2022年 6月29日に掲載されました。