研究者インタビュー
西川 裕展
健康栄養科学研究所栄養食品研究室
全世代の健康に貢献するフード・イノベーションを目指して
健康栄養科学研究所では、「栄養におけるイノベーションで人々をより健康に、幸せに!」を目指し、健康維持・増進を支援する製品開発、ベースとなる基礎・応用研究、学術的情報発信を積極的に行っています。
私が所属している栄養食品研究室では、国内向け、海外向けの育児用ミルクを始めとする栄養食品を幅広く開発しており、最近では宇宙日本食認証を取得した商品もあります。私は国内向け、海外向け両方の商品を担当しており、仕事で関わっている国は商品の製造委託先、販売先も含めると10か国になります(2021年12月現在、日本含む)。
Column-1
2017年にJAXA(宇宙航空研究開発機構)から、宇宙ではより効率的に栄養を摂取する必要があることをお聞きし、大人向けの栄養バランスを配合した《森永ミルク生活》が宇宙飛行士の皆さまのお役に立てるのではないかと、プロジェクトチームを発足。約3年の歳月を経て、2020年に宇宙日本食認証を取得いたしました。同年5月には宇宙に飛び立ちました。
《森永ミルク生活》(宇宙用)外装・内装
文化の相互理解があってこそ実現した
インドネシアでの新商品開発
研究所で初めて担当した仕事は、インドネシアで販売する子ども向け乳飲料の開発でした。現地委託先の新工場立ち上げプロジェクトに携わりつつ、新商品の開発を行いました。研究所に異動してから数カ月しか経っていなかったため、前任の先輩にサンプルの作り方など一から教えてもらいながら進めていきました。当初は日本人との味覚の違い、考え方の違いなどに戸惑うことも多かったですね。担当してから2年後に初めて現地に出張にいきました。留学経験もなかったので、自分の語学力でコミュニケーションが成り立つのか不安でいっぱいでした。
それから2年半の間に10回以上インドネシアへ足を運びました。失敗も経験しましたが、先輩方に支えられ、現地の仕事にも徐々に自信を持って取り組むことができるようになりました。開発した商品がインドネシアだけでなくミャンマーにも輸出されるなど、当社初の“現地製造乳飲料事業”において、市場拡大に貢献できたと思っています。また、現地の担当者と一緒にご飯を食べながら、互いの文化について話すなど楽しい時間を過ごすこともできました。今でも当時の担当者とは新年の挨拶をするなど、交流が続いています。日本の良さを再発見したり、相手の国の文化や歴史などを学ぶことができ、現地スタッフと固い信頼関係を築けたことは私にとって大きな財産ですね。
Column-2
インドネシアでは、同国最大の製薬会社カルベ社との合弁事業として、2007年から現地生産を開始しています。衛生的で高品質な育児用調製粉乳を製造し、まだ十分とは言えない途上国の子供たちの栄養状態の改善に少しでも貢献できるよう、日本の技術者を随時派遣しています。また、国内の生産部門の技術や知識を習得するための研修※に、定期的にインドネシアから数名の技術者が参加し、徹底した品質管理のシステムと技術を学んでいます。
※森永乳業における研修とは?
森永乳業では、「技術・技能の伝承」「品質技術の維持向上」を目的とする生産部門の社内教育機関「森永ミルク大学」として、さまざまな従業員教育を行っています。
パキスタンに合弁会社の製造工場を建設
現地従業員とともに"チーム森永"として商品開発を
インドネシア向けの新商品開発から2年後に、パキスタン現地合弁会社での育児用ミルクの製造プロジェクトに携わりました。森永乳業はパキスタンにおける輸入育児用ミルク市場でシェアNo.1※の地位を築いていますが、将来的にまだまだ拡大が見込める市場であり、更なるシェア拡大を目指して、現地に合弁会社(NutriCo Morinaga Pvt. Limited)の製造工場を建設しました。
NutriCo Morinaga Pvt. Limited外観
私自身もパキスタンに足を運び、製品の製造確認テストに立ち会い、サンプルの評価などを行いました。製造設備の設置や、現地従業員の育成など対応は多岐にわたり、多くの部署のメンバーがプロジェクトに参加しました。想定外のトラブルに見舞われることもありましたが、“チーム森永”として一丸となって取り組むことで、予定どおり商品を発売することができました。※※ユーロモニターインターナショナル調べ。育児用調製粉乳カテゴリー(2023年、エリア:パキスタン)。
パキスタンで販売している育児用ミルクの例
赤ちゃんの健やかな成長と笑顔のために
時代を超えて愛される商品を
赤ちゃんにとって最良の栄養は母乳ですが、育児用ミルクは、赤ちゃんの健やかな成長をサポートできると信じています。今後も最新の科学的な知見に基づきながら、育児用ミルクの栄養成分を、より母乳に近づけていきたいです。当社はお母さんの初乳にも含まれるラクトフェリンを牛乳から分離・精製し、世界に先駆けて育児用ミルクに配合しました。現在では、海外向けの商品にも配合しています。森永乳業の育児用ミルクをさらに母乳に近づけることで、一人でも多くの子供たちの成長に貢献できればと考えています。
Column-3
《森永ドライミルク BF-L》(1986年発売当時)
ラクトフェリンは出産後数日の間に分泌される初乳に最も多く含まれ、生まれたばかりの赤ちゃんを守っていると考えられています。1986年、森永乳業は世界に先駆けて育児用ミルクにラクトフェリンを配合しました。
子供が育児用ミルクを使用する期間は限られています。しかし、森永乳業の育児用ミルクで育った子供たちが将来、自分の子供にそのミルクを選んでくれたら、そしてまたその子供が大きくなったときに…と、時代を超えて愛される商品を開発したいというのが私自身の目標です。世界のどこかのお客さまに笑顔をお届けする商品を開発することが、当社の使命だと思っています。