機能性素材研究

ラクチュロース

世の中に新たな健康価値を提供すべく
解明を進める。
森永乳業のラクチュロース研究
ラクチュロース

育児用ミルクと母乳の研究から始まった
ラクチュロースの歴史

ラクチュロースは、牛乳に含まれる乳糖を原料として作られるオリゴ糖の一種です。牛乳を殺菌することでもラクチュロースが生じるため、普段から牛乳を飲む人であれば、実はとても身近な存在とも言えます。
ラクチュロースが注目されはじめたのは、20世紀初頭まで遡ります。

ラクチュロース 立体構造
ラクチュロース 立体構造

ラクチュロースが注目されはじめたのは、20世紀初頭まで遡ります。
その頃、詳細な原因はわかっていませんでしたが、母乳を飲んでいる赤ちゃんとそうでない赤ちゃんとでは、便の色や形、軟らかさが大きく異なること、また、母乳を飲んでいる赤ちゃんの方が、より健康に育つことが知られていました。
1899年にはフランスのHenry Tissier博士が、その違いはうんちの中にいる善玉菌、つまりビフィズス菌の数の違いであることを明らかにしました。そして、オーストリアの小児科医Friedrich Petuely博士は、乳糖から作ったオリゴ糖とラクチュロースを加えた食品を赤ちゃんに飲ませ、その結果、ビフィズス菌数が、母乳を飲んでいる赤ちゃんの数に近づくことを発見、1957年に論文を発表しました。

ラクチュロースは、ヒトに消化・吸収されずに腸まで届くため、ビフィズス菌のエサとなり、その結果腸内のビフィズス菌の数が増えます。世の中にはいろいろな事情があって母乳が飲めない赤ちゃんもいます。そうした赤ちゃんを少しでも笑顔にしたい、その思いから当社は育児用ミルクにラクチュロースを加える検討を開始しました。そしてPetuely博士による報告から3年後の1960年には、牛乳に含まれる乳糖からラクチュロースを安定して製造する技術を確立し、ラクチュロース入りの育児用ミルク《森永Gドライミルク》を発売しました。

発売当時の《森永Gドライミルク》
発売当時の《森永Gドライミルク》

ラクチュロースはビフィズス菌の大好物

臨床試験により、ラクチュロースを2g、2週間継続して摂取すると、腸内のビフィズス菌が増えて腸内環境を良好にし、お通じを増やす作用があることが確認されています。通常、ブドウ糖などの糖類は消化の過程で吸収され、大腸まで届くのは少量です。一方、ラクチュロースは消化・吸収されないため、口から入った後、食道、胃、小腸を通過し、大腸へと到達します。これがラクチュロースの大きな特徴です。大腸にいるビフィズス菌は、ここぞとばかりにラクチュロースを食べ、増殖します。つまりラクチュロースはビフィズス菌のエサとなるのです。
この時、ビフィズス菌は自身にとって不要なもの(=代謝産物)としてビタミン類や短鎖脂肪酸(=酢酸)などを放出します。ビフィズス菌以外の腸内細菌もラクチュロースを食べ、酢酸のほか酪酸やプロピオン酸といった短鎖脂肪酸を産生することが分かっています。

腸内の絵 腸内のビフィズス菌数

腸内細菌が放出するビタミンは食事だけでは不足しがちなビタミンの供給源になります。また、短鎖脂肪酸は、人体に悪い影響を与える要因となる悪玉菌の増殖を防ぐ働きがあります。これら有機酸の一部は血液に乗って体をめぐりさまざまな作用を示すことに加え、その多くは血液に移行する前に大腸の栄養にもなります。
このほか、短鎖脂肪酸はカルシウムを吸収されやすい形に変えたり、腸を刺激して蠕動運動を促進したりすることも知られています。

最新技術でさらに解明が進む
ビフィズス菌とラクチュロースの関係

ビフィズス菌がラクチュロースをエサにしていることはわかっていましたが、これまでビフィズス菌がどのようにラクチュロースを栄養にしているのかの詳細は明らかになっていませんでした。
そこで当社では、大学の協力も得ながら最新の技術を駆使して研究をすすめ、ビフィズス菌の動きを解明しました。ビフィズス菌はラクチュロースを取り込むための“口”のような機能を持ち、そこからラクチュロースをそのまま取り込んでいたのです。そして、この“口”はヒトのおなかにすんでいる種類のビフィズス菌の多くが持つ特徴であることがわかりました。この特徴を利用すれば、ラクチュロースを摂取することでビフィズス菌がおなかの中で特に増加する人をあらかじめ予測できるようになります。
人によって腸内環境はさまざまですが、今後さらに研究が進めば、一人一人の腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)に合わせて、ビフィズス菌などのプロバイオティクスや、腸内細菌のエサとなるプレバイオティクスといった素材で何が適しているかを事前に予測し、選択できる時代が来るかもしれません。

ラクチュロース摂取前後におけるビフィズス菌数の変化とLT-SBP※の総コピー数別のビフィズス菌数の変化倍率

ラクチュロース摂取前後におけるビフィズス菌数の変化とLT-SBP
出典:K.Yoshidaら(Communications Biology)4.541(2021)を基に作図

高品質なラクチュロースを
もっとおいしく、もっと手軽に

当社では、ラクチュロースを特定保健食品(いわゆるトクホ)や機能性表示食品などの一般食品に活用するだけではなく、医薬品の原料としても国内外に向けて販売しているため、医薬品GMP※という非常に厳しい品質管理の下で、高い品質のラクチュロースの安定した製造に日々取り組んでいます。さらに、より幅広いシーンでラクチュロースを活用してもらうために、一般的なシロップだけでなくパウダーの開発にも成功し、持ち運びや保管が簡単な粉末製品や錠剤、カプセルなどへの加工も可能にしました。

おなかの悩みを抱えているお客さまはもちろん、そうでないお客さまにも、おなかを起点とした健康を支える縁の下の力持ちとして、多くの人が笑顔で毎日を過ごせるよう、安全でおいしいラクチュロースおよびラクチュロース配合商品の開発にこれからも取り組んでまいります。
※GMP:Good Manufacturing Practiceの略。製品の「安全」と「一定の品質」が保たれるように定められた製造に関する規則とシステムのこと。

毎朝爽快
商品画像(2022年3月時点)

Column

活躍の場を広げるラクチュロース

ラクチュロースは、育児用ミルクに配合されるようになったのち、その確かな効果と高い安全性から、便秘薬や高アンモニア血症、高アンモニア血症に伴う肝性脳症の治療薬といった医薬品としても世界中で広く使われるようになりました(医薬品としてはラクツロースと表記されます)。
一方で食品としてのラクチュロースにおいても、1995年から森永乳業の特定保健用食品《毎朝爽快》(飲料)の機能性関与成分として消費者庁長官から「本飲料は、ラクチュロースを原料とし腸内のビフィズス菌を適正に増やし、お腹の調子を良好に保つ飲料です。」という表示許可を受けています。さらに2021年からは、ビフィズス菌を増やして腸内環境を改善したり、またお通じを増やしたりすることを根拠として、森永乳業の飲料やアイスなどさまざまな製品群の機能性関与成分として活躍の場を広げています。

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